万葉集

 万葉集が1250年にわたり なぜ、今日まで詠みつがれてきたのでしょうか。喜びや悲しみなど、自分が感じたことや、地名、植物、気象、季節の風物などのありさまを表現した言葉が人々の心に訴えるからでしょう。
 特に、越中万葉には多くの自然、地名、植物が詠われています。
 日本では、自然のありさまに「花鳥風月」「雪月花」といった表現を使います。「雪月花」の初出は 『万葉集』、大伴家持の越中伏木古国府での和歌です。そのほかにも、枕詞「たまくしげ」と二上山、 万葉集だけに詠まれている植物「かたかごの花」、「あゆの風」と奈胡の浦など四季折々の越中の風物・自然がいきいきと詠みこまれています。
 国府、国守館のあった伏木地区近辺には多くの越中万葉の故地があります。             

 「雪の上に 照れる月夜(つくよ)に 梅の花
  折りて贈らむ 愛(は)しき児(こ)もかも」
  (巻18-4134・大伴家持)
   雪の上に月が輝く夜 梅の花を手折って贈るような 愛する人がいて欲しいな

   「雪月花(せつげっか)」というと、白居易の詩が知られていますが、日本においては、
     白居易が生まれる前に、伏木古国府の地で、この和歌が大伴家持によって詠まれています。

 「玉くしげ 二上山に 鳴く鳥の 
  声の恋しき 時は来にけり」
  (巻17-3987・大伴家持)
   二上山に鳴くホトトギスの、声の恋しい季節がやってきた

   「玉くしげ 二上山」は伏木小学校校歌歌詞「みがけば光る 玉くしげ 二上山の動きなく
     」で使われています。万葉集12巻にでてくる「あずさ弓」も 「岩をもとおす あずさ弓 
     射水の川の 淀みなく」と枕詞を入れながら、地元の山と川を心の比喩として校歌に用い
     ています。

 「あゆの風 いたく吹くらし 奈呉(なご)の海人(あま)の
  釣する小舟(をぶね) 漕(こ)ぎ隠る見ゆ」 
  (巻17-4017・大伴家持)
   *東風が激しく吹いているらしい。奈呉の海人の釣りする小舟が、波の間に漕いでいるのが見え
    隠れしている。

   *伏木中学校の歌(伏木中学校には校歌はありません)の一節に「丘を吹く風、海の風」とあり
    ます。作詞をした地元出身の堀田善衛氏も、万葉集のこの「あゆの風」を連想していたかもし
    れません。富山では「あいの風」と呼び、鉄道会社の社名に使われています。能登では、
    「あえの風」と呼び、ホテルの名前となっています。

 「もののふの 八十娘子(やそおとめ)らが 汲み乱(まが)ふ
  寺井の上の 堅香子の花」    
  (巻19-4143・大伴家持)
   泉のほとりへ美しい乙女たちが三々五々、水桶を携えて集まってきます。
   そのかたわらにカタクリの花が咲き乱れて何と美しいことよ。

   *この「かたかごの花」の短歌は、毎年伏木小学校の創立記念日に和歌に曲をつけ女子児童が
    舞を披露しています。勝興寺の北西にこの井戸と思われるところがあり、歌碑があります。
    勝興寺内の南西には、かたかごの群生があります。

【歴史考察】

 万葉集とは、7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された、現存するわが国最古の歌集です。
 万葉集という言葉の意味(諸説)
  ・よろづの言の葉を集めたものという意味
  ・歌を葉に例えて、多くの歌を集めたものという意味
  ・「万葉」という言葉に万代(永久)といった意味があるのでこの歌集が永く伝わるようにという意味

 万葉集の成立に関しては、現在では大伴家持編纂説が最有力です。ただ、『万葉集』は一人の編者に  よってまとめられたのではなく、巻によって編者が異なるが、家持の手によって二十巻に最終的に   まとめられたとするのが妥当とされています。

『越中万葉』とは、
   万葉集全20巻の中、巻16・17・18・19の内の大伴家持が越中に赴任した5年間に詠まれた
   歌を中心にした337首です。
   なかでも、家持の歌は『万葉集』の全歌数4516首のうち473首を占め、万葉歌人中第一位です
   しかも家持の『万葉集』で確認できる27年間の歌歴のうち、越中時代5年間の歌数が223首で
   あるのに対し、それ以前の14年間は158首、以後の8年間は92首です。その関係で越中は、
   畿内の万葉故地となり、さらに越中万葉歌330首と越中国の歌4首、能登国の歌3首は、
   越中の古代を知るうえでのかけがえのない史料となっています。

【万葉集の和歌の数】
   万葉集の和歌数は、以下のようになっています。
     総歌数:4208首
     長唄:265首
     旋頭歌(せどうか):62首
     仏足石歌(ぶっそくせきか):1首
     ほか:漢詩4首等
【万葉集の全巻の構成】
     巻1:宮廷を中心にした雑歌
     巻2:宮廷中心の相聞歌・挽歌
     巻3:巻1・巻2を補う歌
     巻4:巻1・巻2を補う歌。恋のやりとりの歌
     巻5:太宰府を中心にした歌
     巻6:宮廷を中心にした歌
     巻7:作者名のない雑歌・譬喩歌・挽歌
     巻8:四季ごとの歌
     巻9:旅と伝説の歌
     巻10:作者名のない四季の歌
     巻11:恋の歌・相聞歌のやり取り
     巻12:巻11に同じ
     巻13:長歌を中心とする歌謡風の歌
     巻14:東国で歌われた東歌
     巻15:遣新羅使人の歌、中臣宅守と狭野弟上娘子の悲恋の歌
     巻16:伝説の歌、滑稽な歌
     巻17:巻20まで大伴家持の歌日記。若い頃の周縁の人々の歌
     巻18:越中国の歌など
     巻19:孝謙天皇時代の歌もある
     巻20:防人の歌が含まれる